<米作の原風景を求めて ~少数民族と棚田~7>
旅行期間:2013/12/28~2013/01/04
12/30(月)混濁した意識が徐々に鮮明になってくる。車輪と枕木が一定のリズムを刻んでいる。ふと時計を見やると朝の6時だった。昨夜は寝台に横になって音楽を聴いているうちに寝入ってしまったようだ。
予定ではあと30分でラオカイに到着する。・・・ハズだった。荷物を整理していつでも出られる準備をしたが列車は速度を緩めない。到着予定時刻の6:30になっても到着する気配すらない。これは遅延なのか。時間通りにいかないのは海外旅行では基本なので仕方がないのだが。結局、9時頃になってようやくラオカイ駅に到着した。
ラオカイ駅の入り口には大量の旅行会社の人間が待ち構えていた。名前が書かれた紙を掲げていたので、ツアー客の送迎なのだろう。もちろん俺のようなツアーを利用しない人間は自分でミニバスに乗れば良い。案の定ミニバスの客引きが声を掛けてきた。
「サパ?」
「Si、Sapa」
「ミニバス?」
「Si、Mini bus !!」
案の定、勝手に人の荷物を持って連れて行こうとする。
「待て、いくらだ?」
面倒臭いが事前に交渉しないと後からボッタクリ価格を請求されるのだ。
「Three hundred !!」
高すぎる…図書館で借りた3年前の『地球の荒らし方』でも2~3ドルとなっていたぞ。インフレを考慮しても良いとこ5ドルだろう。
「Too Expensive !!」
「OK、Two hundred !!」
これでも10ドルだから相当高い。が、どの程度客が集まっているか確かめる為について行くことにした。ミニバスには既に半分以上の席が埋まっていた。これならすぐに出発するだろう。一応、値段交渉してみた。
「One hundread !!」
「No!!」
他にもミニバスはあるのだが、この車が最初に出発しそうだ。本気で価格交渉をしても良いのだが、削れても2~3ドルといったところか。それならば少しでも早く出発して時間を有効利用した方が良い。節約型旅行者にありがちなのが、有限な時間を無駄にして僅かなお金を節約しようとする姿勢。一見節約しているようでも、同時に時間を浪費していないか、考える必要がある。
自分の給与を時間換算すれば2,500円以上にはなるので、(簡単の為、1ドル=100円で計算すると)5ドルは12分に相当する。つまり12分待つのならば相場より5ドル高くても問題ないと考えられる。ということで、20000000ドン、つまり10ドルで手を打った。1時間の距離で10ドルというのは物価から直観的に考えても高いのは明らかなのだが。
後から4人組の旅行者が乗り込んできた。欧米人男と東洋人女、東洋人の男女と分かれて座った。おそらく2人組と2人組で旅行していて寝台列車のコンパートメントで一緒になったのだろう。話を聞いていると客引きに「4人か。1人8ドル!」と言われ、支払っていた。欧米人男は先払いはしたくないようで渋っていたが、同行の女性に「We have to pay here !!」と言われ、渋々ながら支払っていた。こういう時に一人旅は不利だ。4人だと1人8ドルで1人だと10ドルになる。ただ、それを考慮すると変な表現だが、10ドルはボッタクリ価格としては妥当なのだろうとは思った。平等にボッタくられている、という意味で。適正価格としては3~4ドルといったところだろう。帰りにサパからラオカイまで宿でミニバスを手配した時に価格を確認したら案の定4ドルだった。正確には国境までで4ドルだったので駅までなら3ドル。客引きがマージンを取っているのだろう。駅で声を掛けてミニバスまで連れて行くだけで5~7ドル、ボロい商売だ。
ミニバスに乗り込んで10分もしないうちに出発。九十九折りの山道を登っていくと、辺りは霧に包まれていく。視界は非常に悪い。この時期のサパは霧が発生する、とは言うがまさにそれに当たってしまった感じだ。高度を上げると同時に体感温度も下がっていった。サパに到着すると乗客を順々にホテルの前で降ろしていった。俺は特に予約をしていなかったが、「Sapa Hostel」と「Sapa Backpackers」を事前にチェックして候補として考えていた。
とりあえず「Sapa Hostel」まで行ってもらう。Sapa Hostelはサパの中心地より少し登ったところにある。レセプションに行くとドミが5ドル、シングルが10ドルという。シングルは1部屋だけ空いているとのことなので、せっかくなのでシングルにしてもらう。とにかく寒いので暖かいシャワーを存分に使いたいのだ。チェックインを済ませると宿のマダムがトレッキングツアーを紹介してくれた。時間的に今日のツアーは既に出発してしまっているので、明日のに参加するしかない。
「今日は近くのカットカット村まで自力でトレッキングして明日はタヴァンまでのトレッキングツアーに参加すると良い」とマダムが勧めてくれた。腹が減っていたのと寒かったのと予定を立てたかったので、ゆっくり朝食を食べることにした。宿で注文できるのだという。これだけ寒いなら熱い麺類に限るでしょ!ということで頼んだのがコレ。一口食べて味が薄いので辛味を入れたら今度はかなり辛くなってしまった。味の調節が難しい。しかし極寒なのでちょうど良いかもしれない。
長期旅行の時だったら霧が濃くてかなり寒いこのような日は休養日にして部屋で動画を観たり本を読んだりネットで情報収集やSNSで遊んだりしていたのだが、短期旅行では時間を無駄にできない。ということで、カットカット村に行くかどうか決めかねたままとりあえず町に出てみることに。
サパの町は小さく30分もあれば一通り周れるので、寒かったらカフェにでも入ってまったりしよう。中心地へ出たが相変わらずの霧で視界は非常に悪い。しかし、町の至るところに民族衣装を着た女性がたむろしている。なるほど、確かに観光地だ。市場の入り口に来たところで2人組に話しかけられた。
「Where are you from ?」
「from Japan」
「What your name ?」
「My name is SHOW」
「Oh、you are SHOW-chan!!」
おいおい、いきなり「ちゃん」付けか。すかさず彼女も名乗る。
「My name is Ne-chan !!」
もう一人も名乗る。
「My name is Su-chan !!」
ハハハ、ネーちゃんとスーちゃんか。覚えやすいけど、敬称で「ちゃん」付けするってことはそれだけ日本人旅行者が多いのかな。これから、ツアーには組み込まれていない自分達の村に来ないか?と誘われた。村までのトレッキングガイド、手作りランチ、含めて50ドルで良いという。
いや、高すぎだろソレ!と言うと「いくらならOKか」訊いてきた。こういう訊き方をするのは慣れている証拠だ。「○○ならOK」と言わせる時点で相手が了承したら断りにくくなるからだ。もちろん強引に「やっぱりイヤだ」と断ることはできるが心理的に。ネットの旅行記でこのパターンも見ていたのだが、相場を忘れてしまっていた。
「うーん、20ドル」
ネーちゃんが一瞬「おっ!」という表情をした。この瞬間、自らのミスを悟った。こちらの言い値が予想外に高かったのだろう。
「25ドル」
ネーちゃんがすかさず返してきた。
「No, 20 dollar !!」
もちろん拒否。
「OK, 20 dollar、OK」
ほうら、やっぱりね。25ドルというのはダメ元で言うだけ言ってみただけだろう。表情と口調で分かった。これなら15ドルくらいでも余裕だったな。しかし、ローカルな村を訪問するというのも悪くない。20ドル分満喫すれば良い話だ。時刻は既に12:30を回っていたので、そのまま出発することに。サパの町を歩き回ってまったりするのも悪くはないが、天候が悪くても積極的に動きたいのだ。実は今回かなり寒いのは分かっていたので貼るタイプのホッカイロを持参した。10個入りで178円、なかなかお得だと思う。それを今日は2つ両足の太腿に貼り付けてきたのだ。ところが、歩き出して少し経った時に見たら両方とも取れてしまっていた。これじゃ何の意味もない。
ネーちゃんがサパは標高が高いけど、下っていけば霧が解消するので視界も良くなるよ、と言っていたが下りても相変わらず濃い霧が立ち込めていた。実際のところ、今日の天候ではとあまり期待していなかったので大して落胆もしない。途中このような看板を見つけた。このあたりにも大型ホテルが建設されるのか。益々の観光化が進むことになるだろう。