<米作の原風景を求めて ~少数民族と棚田~12>
旅行期間:2013/12/28~2013/01/04
河口の町の地図は『地球の荒らし方』ベトナム編に簡易的なものが載っているのだが、これによると国境からすぐの所に安宿街がある。国境を背に左に曲がって少し行ったところに長距離バスターミナルもある。明日の朝、移動する身には好条件だ。
と考えていたら、まさに簡易的な地図で安宿街まで意外に距離があった。ふと目に入ったホテルがあったので、入ってみた。レセプションに小柄な女性が座っていた。顔立ちはかなり東南アジア風である。
「Hello,do you speak English ?」
当然返事は「No」だった。シングルの価格を聞くと138元という。外観からも分かっていたが、安宿ではなくビジネスホテルのようだ。短期旅行だし、これから安宿に2泊してその次の日は寝台バスで過ごすことを考えて、これくらいの贅沢はしても良いだろう、という結論に至った。とは言っても17.7×138=2,442円だ。Wi-Fiと書いてあったので、「有Wi-Fi?」と確認すると、当たり前のように頷いた。何よりレセプションの子が気に入った。
長距離バスターミナルはどこ?と中国語で尋ねたら全く通じなかったようで「あ???」と返ってきたのだが、若干萌えた。中国語では聞き返す時に「あ?」と言う。日本での「はい?」や「えっ?」に相当するようなものだろう。慣れていない日本人は「あ??」と言われて怒るかもしれない。が、これに怒ってはいけない。悪気は全くないのだ。中国語の教科書にも書いてある。「??:聞き返す時の言葉」と。しかし、ナニイッテルノカワカリマセン!?という表情で「あ???」と言われると、日本人はイラッと来る人が多いんだろうなぁとか会話中に考えていた。
やはり英語が通じない環境の旅は面白い。当然、筆談に移行する。もちろん日本語の漢字と中国語の漢字はイコールではないし(中国語では一般に簡体字が用いられる)同じ漢字でも全く違った意味で使われるケースが多い。中国語圏に来る度に思う。大学時代、第二外国語で中国語を勉強したのに腐らせてしまったのが勿体ない、と。英語レベルはともかく、南米に行く前に20時間ほど勉強したスペイン語にすら到底及ばないレベルなのだ。スペイン語は旅行会話程度ならあまり困らない。事前に調べてきた「長距離バスターミナル」の中国語表記を書くと「チーチェ!」と言われる。おそらく「車で行け」と言っているのだろう。だが、近いので歩いて行きたい俺は、歩くという中国語の単語と歩くジェスチャーで説明する。すると真っ直ぐ北を指すではないか。国境から見て左(西)ではないのか。これ、もしかして地図が間違っているパターン?いずれにしても・バスターミナルの場所を確認・明日の元陽行きバスの発車時刻の確認・チケットの購入を今夜のうちに済ませておきたかったのだ。
話がややこしくなってきたので、とりあえずチェックインだけ先に済ませることにした。だが、彼女が提示した額は・・・「300元」だった。
「なんで?138元言うたやん!」
と紙に138元、と書く俺。彼女の返事は「押金」だった。この単語は知らなかったがなんとなくデポジットの事だと気づいた。念の為にジェスチャーを交えて確認。
「明日、162元を俺にバックするの?」
「うん!」
レセプションの少女の顔に笑みが浮かんだ。筆談はこういう瞬間が楽しい。一歩一歩、会話と理解が進んでいく感じ。部屋に荷物を置いてすぐに出かける準備をした。ビジネスホテルだけあってベッドはかなり大きく、シャワーも十分な熱さのお湯が出た。
河口の町は(一部の男性にはある理由で人気なものの)観光目的では特段何があるわけでもないが、前述の理由で歩くことになった。大き目のホテルのレセプションで場所を聞きながら歩いた結果、とても歩いて行ける場所ではない事が判明した。地図に書いてあった国境から少し西に向かった場所にある、というのは大嘘だった。これだから『地球の迷い方』などと揶揄されるのだ。
明日の朝、タクシーで行くことにしてバスの中で食べる食料や飲み物の買い出しと夕飯を食べることにした。と言っても結局、スーパーで買ったカップラーメンを年越しそば代わりに、ホテルのロビーで食べたのだが。明日のバスの中で食べる食料は安定の『OREO』だ。部屋に戻って最後の情報収集。というのもこの時点でまだ元陽のどこに泊まるか決めていなかったのだ。
元陽では南沙と新街鎮と2つある。南沙が行政上の中心となる町で役所等がある。一方、南沙から1時間程山を登った場所にある新街鎮は棚田観光に便利で、通常観光客はこちらに宿をとる。そして新街鎮で車をチャーターして有名な棚田の見どころを周るか、ミニバスに乗って自力で棚田を見に行くことになる。事前調査では、日が暮れるとミニバスがほとんど通らなくなるとあったので、新街鎮に宿泊するなら車のチャーターは不可避だ。短期旅行なら1日に1つずつ棚田を見に行くといったのんびりした行動は避けて、1日チャーターで一気に見て周りたいのだ。新街鎮には安宿は幾つもあるし、車のチャーターを待っている人も多いようなので“行けば分かる”のだろう。
もう一つの選択肢が、国際青年旅舎(ユースホステル)に宿泊するというもの。こちらは多依樹という代表的な棚田がある村にあるのだ。多依樹には歩いて行けるが、残りの2つの代表的な棚田である、覇達と老虎嘴(猛品)に行く為に車をチャーターする必要があるのは同じだ。ユースホステルならば、車をシェアする旅行者を見つけやすいだろうから、新街鎮で降りた後、そのまま多依樹までミニバスで行くことにした。
Webで情報を調べつつそこまで決めたところで、爆竹が鳴り響いた。年が明けたのだ、2014年だ。それまでも単発で爆竹の音が何度も聞こえていたのだが年が明けてからは花火と共に絶え間なく爆竹の音が鳴り響いた。中国らしい年越しだなと思いつつ眠りについた。