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モロッコ幻想紀行【10】 ~砂漠への道~

バスはダデス渓谷を下ってゆく。ダデス渓谷の道は舗装されてはいる
ものの、道幅が補足うねうね曲がりくねっている。変化に富んだ景色
は見ているだけで飽きない。このダデス渓谷はヨーロッパ人には人気
のドライブコースなのだという。
10時頃、バスが停車したと思ったら男が乗り込んできた。
「ボンジュール!」
「ボンジュール!!」挨拶を返すツアーメンバー。
どうやら彼がガイド役らしい。
ここはオアシスの町ティネリール。
景色が土色から緑色に変わった。耕作地の中を通っていく。
時折、立ち止まってオリーブの木やナツメヤシの木だと
説明してくれた。20分ほど歩くとベルベル人の家へ到着。
まるで懐かしい客人が訪れたかのように招き入れてくれた。
まずミントティーを振る舞い、続いて彼らの日々の暮らしや
絨毯の作り方などを話してくれた。
ツアーメンバーではジュリアが積極的に質問。
「英語はどこで習ったの?」
「学校に通って勉強しました」
負けた。彼の英語はとても分かりやすいものだったけど、それでいて
ネイティブの彼女達と普通に話せている。
俺が彼女達と話す時はときどきスピードについていけなくて「Pardon?」
と言ってしまう。少し劣等感。自分の語学力の弱さが少し悔しく歯痒い。
ミントティーは冷やすために高いところからグラスに注ぐのだが
その所作がどことなく好き。何が好きなのかは分からないが。
沢山の絨毯を見せてくれた。硬いものから柔らかいもの。
大きなものから小さなものまで。結局ツアーメンバーは誰も買わなかった
けど、ベルベル人のご主人は嫌な顔をするでもなく送り出してくれた。
カナダ人の旦那が値段交渉したが、ラストプライスが150DHと聞いて
結局買わなかったな。相場が分からないし鑑定眼もないので、妥当な
値段かも分からない。何より、大きな荷物を増やしたくないので
モロッコへ来る前から絨毯は買わないつもりではいたが。
滞在時間は30分ほどだったか、再びガイドに従ってバスへ戻った。
次の目的地、トドラ渓谷へ向かって再び疾走。
今日も日差しは強く、窓にかけている左腕が熱い。
ちょうど12時頃、トドラ渓谷へ到着。
事前にガイドブックや旅行記を読んで楽しみにしていた地。
“モロッコのグランドキャニオン”だ。もっとも、正確にはズィズ渓谷
の方がよりグランドキャニオンに似ているそうなのだが。
写真の通り、大きな岩が連なるモロッコの景勝地。ここではランチタイムを
含めて90分ほどの休憩時間。カナダ人夫婦は近くのレストランへ入ると
ランチを注文してから、ウエイターに「周辺を歩いてくる」とのこと。
なるほど、それは賢い。ということで同じく注文してから散策しに行った。
ここも剥き出しの自然。都市の美しい建築物や遺跡、海や湖の鮮やかな色
も良いが、切り立った岩に凶暴な自然の野性的な美しさを感じる。
そして大きい。人間の小ささを思い知らされた。
岩山の中に動くものを発見!よく見ればロッククライミングをする人間だった。
なるほど、そういえば世界的に有名なロッククライミングの練習場、と
書いてあったな。特にヨーロッパから練習しに来る者が多いとか。
渓谷には川も流れていて思った以上に冷たく気持ち良い。
もちろん、観光客が多く訪れる場所なので土産物販売の店も沢山ある。
モロッコ人の子供が「ベルベル!フォト!」と言って近寄ってくるが
「ノン、メルシー」で撃退。好みの問題だが、慣れている人にチップを渡し
それ用のポーズや笑顔を写真に撮らせてもらうのはどうにも気が進まない。
断ると今度は土産物?売りがやってきた。
「日本人?」
「そう、日本人。」
「これから砂漠へ行くのか?」
「そう、ここの次に砂漠へ行くよ。」
「砂漠は暑い。」
「うん、暑いだろうね。水を持って行かなきゃ。」
「砂漠は暑い。ターバンを用意した方が良い。」
俺の頭を指差す。
「大丈夫、持ってるよ。」
と言うものの
「大丈夫か?砂漠は暑いぞ。」
と繰り返してくる。
話が長くなりそうだったので「シュクラーン」と言って立ち去った。
そして、来た道を引き返しレストランへと戻った。
ウエイターに「料理できてる?」と尋ねるとすぐに持って来てくれた。
オムレツセットである。暑いので冷たいサラダが美味しい。
しばらくすると女子軍団も戻ってきた。おもむろに席に座り注文を
決めていく。ジュリアが取りまとめてフランス語で注文していた。
食べ終えた後は、向かいの売店で水を買って飲んだり、日陰で涼を
取って出発を待っていた。
「ヤッラ!ヤッラ!」の声を合図にバスへ乗り込んだその時、
見知らぬ二人組がバスに乗り込んできた。30代くらいの男性と女性だ。
「新しいお友達だよ~」
ドライバーが説明する。もともとここで乗り込んでくる話になっていた
のか、あるいは我々が観光&ランチを楽しんでいる間にそのような話が
まとまったのか、いずれにしてもメンバーは2名増えて総勢12名となった。
早速ジュリアが挨拶する。彼女は積極的だし、誰にでもフレンドリーだ。
横で会話を聞いていたが、2人はアメリカ人でモロッコの前はギリシャを
旅していたらしい。アメリカ人の男性の方はマイペースなおっさんという
印象を受けたが、女性の方は積極的でフレンドリーっぽい感じだ。
目が合うとニコッと微笑む様子がまたpeacefulだ。
次は・・・いよいよ砂漠だ。最終目的地にして最大の目的地。
窓の外の風景を見ていても、だんだん砂漠が近づいて来るのが分かる。否、
砂漠に近づいていってるのだ。途中、エルフードはそのまま通過。
そして、砂漠前のラストストップは・・・売店の前。水を買うのだ。
まだ1.5リットルのペットボトルがまるまる1本残っていたが、6DHと安かったし
念の為に2本購入。喉が渇き易い体質だし、何が起こるか分からない。
多めに買って損することはないはず。さすがに4.5リットルあれば足りるだろう。
再びメルズーガへ向けて走り出した。リッサニの街を通り越し、メルズーガが
近づいてきた頃、急にバスの揺れが激しくなった。スピードを落とすドライバー。
舗装された道が終わり、ピスト(舗装されていない道)に変わったのだ。
素人からすれば、そこが道であることも見た目には分からない。
もっとも、以前はリッサニからメルズーガまでの道などなかったようで、リッサニ
からメルズーガまで未舗装の道をずっと進む必要があったそうだ。そして・・・
17:30頃、メルズーガのオーベルジュへ到着。その名も『YASMINA』
はい、休みます
・・・ではなくて、YASMINAとは「ジャスミン」という意味だ。
オーベルジュの向こうには終わりのない砂の世界が広がっていた。

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