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モロッコ幻想紀行【8】 ~アトラス山脈を越えて~

2 June, 2009
6:00起床。
よく「アザーンで目が覚めた」というイスラム圏への旅行記を
目にするが、全く気づかず眠っていた。震度5の地震でも気づかず
眠っていた実績がある俺の目覚ましには役者不足である。
さて、これまでの一人旅からいよいよツアーへと変わるわけだ。
昨年のマルタでの現地ツアーが楽しかったし、そこから今でも
付き合いのある友人ができたので、今年はどんな出会いがあるのか
と少し期待。そしてそのツアーが終わればモロッコとさようなら、だ。
短期の旅行は本当に早いものだ。
まずは腹ごしらえということで、荷物をバックパックにまとめ、
フロントへ降りていく。昨日のおばちゃんが言うには5時から朝食
食べられるようになっているとのこと。降りると兄ちゃんがいた
ので「朝食食べたいんだけど」と言うと用意してくれた。
パンとチーズとオレンジジュース。ヨーロピアンスタイルである。
そしてやはりミントティー付き。緑茶に砂糖を入れて飲む。
これが合わないという日本人が多いようだが、甘党の俺には合う。
15分で食べ終えると、出発するため部屋へ戻った。
昨夜、干しておいた洗濯物も全て乾いていたので取り込み、バック
パックに詰めた。バスに乗るのでよく使うものだけ小さなリュックに
移動。さて、出発。この部屋ともお別れだ。
再びフロントへ降りてチェックアウトを済ませる。
この兄ちゃんは無愛想というか、かなり横柄な態度でちょっとイラッと
した。ガイドブックに「従業員の品位に問題があって苦情があったので
女性客は避けた方が良いかもしれない。」という記述があったが、分かる気
がした。個人的にはやることやってくれればそれ以外のことは我慢するが。
さて、7時集合とのことだったが、モロッコ時間なので7時になっても
集合しない。10分くらい過ぎた頃にツアー会社の女性が迎えに来た。
一緒に『Sahara Expedition』の事務所へ行くと、既にたくさんの旅行者
がいる。ざっと見て20名くらいか。ここで、少し嫌な予感を感じた。
さらに20分待つと、ツアー会社の女性が「1泊2日ツアーに参加の人は
こっちよ!」とミニバスへ誘導。そちらの参加者はミニバスへ乗り込むと
出発してしまった。
当然、残ったメンバーが2泊3日のメルズーガ行きツアー。
この時点で先ほどの嫌な予感が的中したことを悟った。
先にメンバーを紹介しておくと・・・
イギリス人女性2人組(20代半ば)
イギリス人女性3人組(20代前半)
アメリカ人女性2人組(20代前半)
カナダ人夫婦2人組(30歳前後)
そして、日本人1人(俺)
アウェーだ。完全アウェーだ。これやばいよ、俺、間違いなく孤立するよ。
直感がそう訴えていた。なにせ、男が俺とカナダ人の2人しかいない。
そして、彼はメンバー中唯一の夫婦参加組なのだ。他の参加者は友人同士
での参加らしい。しかも、皆20代前半~半ばくらいで歳が近い。
初対面でも若い女性ってすぐ仲良くなるもの。となると彼女達はすぐに
仲良くなるだろう。そして、カナダ人夫婦は独自路線で行くだろう。
どう考えても俺が孤立する。(ネガティブ日本代表)
まるで、ほぼ白人女子だけの集団に東洋人が1人放り込まれたらどうなるか、
の実験のようだった。そして、この予感は現実のものとなるのであった。
そんな俺の動揺とは関係なくツアーは進行する。
さらに20分くらい待っただろうか、ミニバスが到着した。
大きい荷物は後ろへ入れ、身軽になってバスへ乗り込んだ。
結局、出発は8時頃だった。バイバイ、マラケシュ。明後日戻って来るぞ。
マラケシュ市街を抜けるとすぐにアトラス山脈が近づいてきた。
アトラス山脈は地域によって名称があり、マラケシュからはオートアトラス
(オートは「高い」の意味)と呼ばれる山脈を越えて行くのだ。
4,000メートル級の山々が連なる道をバスはあまりスピードを落とさずに
走っていく。途中、ガードレールがない道などもあり、「これ、落ちたら
即死だな・・・」と自分の部屋を整理してから来るべきだったか、と考えたりした。
途中、景色の良いところで車を停めて写真撮影の時間を取ってくれた。
そういうところには必ず土産物販売のモロッコ人がいるもので、こんな
アトラス山脈の中にまで・・・と感心した。
「ヤッラ!ヤッラ!」
ドライバーの大きな声が響く。「ヤッラ」とはアラビア語で「行こう」と
いう意味。出発の度に彼が「ヤッラ」と言うのですぐに覚えてしまった。
その後もう一度休憩所で休んだ後、バスはアトラス山脈を抜け「アイト・
ベン・ハッドゥ」へ向かった。
「アイト・ベン・ハッドゥ」とはワルザザード近くにある小さな村。
モロッコを代表するカスバ(※)であり、世界遺産に登録されている。
映画『アラビアのロレンス』『ハムナプトラ2』『グラディエーター』など
も撮影されている有名な観光地である。なお、アイト・ベン・ハッドゥには
現在も5~6家族が生活しているとのこと。
※カスバとは、「城壁に囲まれた要塞」の意味。カスバ街道とは、
 そんなカスバが点在するモロッコ南部を東西に走るルートである。
ここでドライバーの言葉は「30分後に出発するから見て来い。」だった。
短い。たった30分しかないなんて。効率良く周るツアーだから仕方ない
のだろうけど。ということで、時間が勿体無いのでさっさと見て周るか。
途中、カナダ人夫婦と話をした。自己紹介をしてお互いにアイト・ベン・
ハッドゥを背景に写真を撮った。
「写真撮って欲しい時には、いつでも言いなさい。」なんて言ってくれた。
なんて良い人なんだ! ネガティブだけど感激しやすい俺。
旦那さんの方は大柄でぶっきらぼうだけど情の厚そうな人。ケント。
奥さんの方は人懐っこく優しさが溢れる感じの女性。シンディ。
この二人には後々何度も助けられることになった。
シンディが川を渡る時、モロッコ人の子供が手を差し伸べてくれたので
「ありがとう」と手を借りたら、渡った後で「マネー!マネー!」と
要求されていた。苦笑しつつコインを1枚渡すシンディ。その様子を見て
いた俺は同じように子供に手を差し伸べられたが「ノン、メルシー」。
実際、助けなんて要らない浅い川だし。むしろ水が気持ち良さそうなので
靴を脱いで川の中を渡っても良かったくらい。
アイト・ベン・ハッドゥの中に入ると、辺りを探索しつつ写真を撮った。
そして観光客が来るところには必ず土産物売りがいるのがモロッコ。
いちいち声を掛けられる。時間がないので無視すべきかもしれなかったが
自分で設定した旅のテーマを破るわけにもいかず、挨拶だけして
「時間ないからバイバイ!」で会話を終わらせていた。
30分を過ぎたのでミニバスの所まで急いで戻るとドライバーは近くのカフェ
でくつろいでいた。そしてツアーメンバー同士の自己紹介が始まっていた。
お互いに「どこから来たのか」や「名前」を名乗り、握手を交わしている。
一瞬、空気を読まずに強引に入っていって俺も握手して回ろうか、などと
考えたが、自己紹介は「スマートに、エレガントに」がモットーな俺としては
いささか無粋な振る舞いに感じられたので止めておいた。
大嘘である。
怖気づいただけだ。(キング・オブ・ネガティブ)
「一人だけ東洋人」
「唯一の一人参加」
「しかも男性」
(もう一人の男性は夫婦なので相手が女性だけのグループでも馴染めていた。)
予想通りの展開。
やはりアウェーだ。完全アウェーだ。
そして、ランゲージプロブレム。
俺以外は全員英語を母国語とする人達である。
俺の前職は、顧客が全て外資系企業という会社に勤めており、当然顧客との
やりとりは英語で行っていた。社内も多国籍であり、コンビを組んで仕事して
いたのはイギリス人だった。当然、日常会話は英語である。
つまるところ、英会話には多少の自信を持っていたのだ。
しかし、その自信は木っ端微塵に打ち砕かれた。
ネイティブ同士の会話スピードにはついていけない。50%程度しか理解できない。
“英語を母国語としない人”とは英語でスムーズにやりとりできたが、それは
お互いのレベルが低かっただけだろう。また、ネイティブの人は俺のレベルに
合わせてゆっくり話してくれていただけだった。
そんな分かりきった現実を「英語で意志の疎通ができている」という事実で
すっかり忘れていた。
何のことはない、相手が俺のレベルに合わせていただけだったのだ。
この時点でかなりテンションダウン。かなりの凹モードだった。
そんな心の内を悟られないため、裏腹に初めて見る景色にワクワクしている
かのような様子で、辺りの写真を撮りまくっていたのであった。
ドライバーが近づいてきた。少しホッとした。やっと出発してくれるのか。
「ヤッラ!ヤッラ!香港?」と訊かれた。
「ノン、ジャポン!」答える俺。
バスの中では打ち解けて仲良くなった皆が楽しそうに雑談していた。
ワルザザードへの道半ば、アトラス・シネマスタジオが見えたが、
停まらないようなのでミニバスから写真だけ撮影。
そして13:00、ワルザザードに到着。
ランチと街の見学で90分ほど時間がもらえるとのこと。
皆、ランチに指定されたレストランへ入って行ったがテーブルを見て焦る。
8人用の大きなテーブルと4人用の小さなテーブルがある。そして少し離れた
場所(日なた)に4人用のテーブル席がもう1つあった。
8人用テーブルには、女子軍団7人が座った。
カナダ人夫婦は4人用テーブルへ。
(どこに座るべきか・・・)
俺が選んだのは日なたの4人用テーブル席。
すると、カナダ人の旦那が俺を見て「こっちへ来い」と合図した。
8人用テーブルの空いている席を指差し、座れと言うのだ。
その誘いを拒むのはどうかと思ったので、移動すると
「そっちは日が差して暑いだろう」とのこと。その気遣いがまた嬉しい。
ということで女子軍団のテーブルに1人混ざることになった。
正直、カナダ人夫婦のテーブルにお邪魔したかったが、夫婦の食事を
邪魔するのも嫌だったのだ。
もっともテーブルを挟んでカナダ人夫婦とずっと話をしていた。
この時に彼らはカナダ人でモロッコとスペインを旅していることを知った。
モロッコを4週間、スペインを2週間、だそうだ。なんとも羨ましい。
俺は1週間しか休みがなく、その間でモロッコを旅していることを説明すると
驚いていた。日本ではそれでも好きな時期に休暇を取れるのは恵まれている
方であり、1週間丸々休暇を取得できないビジネスパーソンが多々いる、と
説明したら、信じられないという顔をしていた。
もっともな話だ。6週間の休暇を取って旅している者にしてみれば、1年で
1週間しかまとまった休みが取れないのは考えられないだろう。
もちろん有休を繋げて取ればもっと長期の休暇は可能なのだが、現実問題と
して、2週間・3週間と休むことは日本の企業では難しいだろう。
俺も、スペインからモロッコへ船で渡る旅をしたかったので羨ましかった。
今回モロッコは北部を周らなかったので、次こそ。世界一周の過程ででも良いか。
ランチは鶏肉のクスクス(60DH)と水(10DH)を注文。
水は1.5リットルのペットボトルが出てきた。この時期かなり暑いモロッコ
南部では、水は常に持っていたいので助かる。女子軍団は相変わらず
楽しそうにおしゃべりしている。この3組の若い女性達は、もうすっかり
昔からの友達であるかのように馴染んでいた。
(若い女ってのはすぐ仲良くなるもんだよなぁ。入っていけねぇ・・・。)
などと眺めていたら、そのうちの1人が話し掛けてきた。
「えーと、何語で話せば良い?」
「日本語でよろしく!」
「話せないわ。」
「冗談だよ。英語でお願い。」
その後、分かったのだが彼女はフランス語も話せたのだ。
軽く自己紹介。彼女はジュリアと言ってイギリスからの旅行者だそうだ。
様子を見ているとどうやら女子軍団のリーダー的存在のようだった。
カナダ人夫婦は食事を終えると散策に出かけた。
会計はテーブル毎なので、俺は女子軍団の雑談が終わるのを待つしかなく
かと言って会話にも入れず・・・非常に苦痛でした。たまにチラチラとこちらを
見る彼女達の視線が痛いことこの上ない。
「なに、しれっと同じテーブルに座ってんの?この日本人の男は。」
そう言われてるような錯覚に捕われました。
読者諸君!
女子高生の7人のグループにたった1人放り込まれた状況を想像して
みていただければ、この苦境が分かってもらえるかと思う。
しかも、皆の言葉は英語。ネイティブだから流暢すぎてついていけない。
なんだか悔しいので
「おまえらっ!益若つばさを生で見たことあるか!ないだろ~!」
と、つまらないことを言って対抗したくなった俺。
(追い詰められるとワケワカラン事を言いたくなるらしい)
結局言わなかったが、俺もTVでしか見たことないのだ。
この時頭の中で流れていた歌は『恋心(B’z)』
こんな時妙に仲がいいよね♪
これが女の連帯感なのか困るね先生とても♪
自分の食事分を誰かに渡して散策しに行こうかな、と思い始めた頃に
ようやくお会計、となった。
食事を終えた後は付近の散策。
カナダ人夫婦を見つけたので、再びお互いの写真を撮影。
それから、今までどういう国へ行ったかなど旦那さんと話をした。
散策していると土産物屋の客引きに声を掛けられた。
「どこから来たんだ?日本か?」
モロッコに来て何度となく言われた言葉だ。
「1人で?それともツアーで?」
「ツアーだよ。」
「この後はサハラへ行くのか?」
「そう、明日サハラへ行くよ。」
「ちょっとこっちで話でもしないか?」
「時間ないよ。もうすぐ出発なんだ。」
「何も買わなくていい。見るだけ見るだけ。」
(どうせまた後で売りつける気なんだろうな。)
「それじゃ、見るだけだぞ。」
と言い、ついて行った。
彼は絨毯など土産物を沢山見せてくれた。
そしてストールをターバンとして巻いてくれたりもした。
その時、帽子を持ってこなかったから明日砂漠でターバンとして
使えば日除けにちょうど良いな、と思いついた。
「砂漠は暑いぞ。こうして頭に巻くと良い。」
「ふーん、いくら?」
「お前が値段決めてくれ。その値段で良いから。」
これまた今までにないパターンだ。
「じゃぁ、20DH!」
「100DH」
なんのことはない、順番が逆になっただけじゃないか。
「30DH」
「90DH」
「わかった、50DHなら買う。」
「60DH。これはベルベルの色なんだ。」
濃紺色はベルベル人の色らしいが、俺には関係ない。
「50DHじゃなきゃ買わない。」
ここで買う必然性がない俺は強硬姿勢を崩さない。
「分かった、50DHで良い。」
商談成立。
50DHでも多少ボッたくられているのだろうが、所詮600円程度だ。
明日、砂漠で必要なのも事実だし別に良いか。
少しアラブ式商法に慣れてきたようだ。
ミニバスの所へ戻ると皆集合していた。
「ヤッラ!ヤッラ!」
ドライバーもすぐに戻ってきて、出発。
少しだけメンタルが回復した俺を乗せ、バスは再び走り出した。
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【次回予告】
アウェーな環境に追い詰められたショウは、限界を突破!!

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