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長い夜もやがて明ける

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登場人物紹介

ショウ:トルクメニスタン旅行の起案者、事前手配を担当。トルクメではヤンギ・カラとダムラ村の訪問を熱望。

ノヴァ兎:トルクメニスタンメンバー、北朝鮮やブータン等の一風変わった国を好み、旅行してきた。トルクメでは首都アシガバードの風変わりな様子に期待。

イースト:トルクメニスタンメンバー、シルクロード好き。4年前、ウエストとシリアで出会う。トルクメではメルブ遺跡を最も楽しみにしている。

ウエスト:トルクメニスタンメンバー、シルクロード好き。4年前、イーストとシリアで出会う。トルクメではガスクレーターを最も楽しみにしている。

再び空港へ

6~7駅くらい乗った頃には乗客が徐々に減ってきた。それまでは乗客が詰まっていて隣のドア付近も全く見えない状況だったのだ。視界が開けてきたので、隣のドアから乗り込んだノヴァ兎を確認しようとしたが、、、いない。どこか席が空いて座ったのかと思い、見回してみたがその姿は見えず。ここで一つの考えが浮かんだ。もしかしたらトラムに乗り込んだ直後、俺が乗って来ないのを見たノヴァ兎はトラムから降りたのではないか。だとしたら俺だけトラムに乗ってしまったことになる。その場合、ホームに俺の姿を見つけられなかったノヴァ兎は一本後のトラムに乗って来るはずだ。だが、もしノヴァ兎がこのトラムに乗っているとしたら、わざわざ無駄に1本遅らせてしまうことになる。22時過ぎのトラムに乗ったので、空港まで約1時間かかるとして23時到着。フライトの2時間前だ。ギリギリではないもののそれほど時間に余裕があるわけでもない。いずれにしても空港に行くにはトラムからメトロに乗り換える必要があるので、そこでノヴァ兎と落ち合えるかもしれない。そこで考えることにしよう。

トラムはやがて乗り換え駅であるゼイティンヌブルク駅へ到着した。ホームに降りて人だかりが通り過ぎるのを待ったが、残ったのは俺だけ。ノヴァ兎は乗っていなかった!?ここで再び思案。ノヴァ兎も空港までの行き方はさすがに知っていると思うが、万が一知らなかったらどうするか。さすがに乗り換え駅くらいは覚えているだろうが、一抹の不安を感じた俺は次のトラムを待つことにした。但し、1本だけだ。それ以上待っても途中で合流するのは難しいだろうし、それが原因で遅れたら元も子もない。

ここで思い出したのが、成田空港でのウエストの言葉だ。「もしお連れの方が間に合わなかったら乗りませんかって?いやいや、1人でも乗るから!」そうだ。今回はトルクメへ一緒に行くというテーマだが、基本は一人旅の集合体なのだ。それが大原則。ましてや行き先は空港だと分かりきっているのだ。迷うことはない、1人でアタチュルク空港へ向かおう。ましてやもしノヴァ兎が俺を心配してトラムを降りていたら、それは俺を信頼していない事でもあるわけだ。そして逆も然り。正直なところ、かつてお酒を飲んでフライトを乗り過ごしたことのあるノヴァ兎に不安を感じないわけでもなかったが、今日は酒も飲んでいないし大丈夫だろう。・・・あ、レストランで酒を飲んでいたっけ。・・・まぁ、大丈夫だろう、きっと。

結局、10分待って次のトラムを待ったが、ノヴァ兎の姿はなかった。元々乗っていたトラムにも次のトラムにも乗っていないとなると、次を待つという行為が自らの遅れにも繋がってくる。決めていた通り、1人で空港に向かうことにした。改札を通り、空港行きメトロに乗った。ゼイティンブルヌ(Zeytinburunu)駅から空港駅まではトラムに乗っていた時間よりずっと短い。5、6駅だっただろうか。空港に入ると国際線ターミナルのチェックインカウンターを探す。アタチュルク空港は24時間空港なのでこの時間帯でも人が多い。トルコ航空のチェックインカウンターへ行くと、列の中にノヴァ兎がいた。やはり杞憂だったようだ。しかしどこへ消えたのだろうか。訊くと、そのままトラムに乗ってゼイティンブルヌ(Zeytinburunu)駅でメトロに乗り換えて空港まで来たようだ。つまり、待つ必要は全くなかったようだ。いずれにしても合流できたので何の問題もない。イスタンブールのトラムが遅い時間帯でもかなり混み合うという事は痛感した。トルクメから戻って2日滞在した後、モスクワ行きのフライトに乗るのだが、今回とほぼ同じ時間帯に空港へ向かうので要注意だ。

空港ではイミグレに並ぶ列が非常に長かった。深夜は列に並んで待っているだけでも疲れるものだ。そして隙あらば割り込もうとする人の多いこと多いこと。イミグレそのものはあっさりスタンプを押されて通過できた。セキュリティも問題なく通過し、プライオリティパス持ちとしてはラウンジへ向かうのは当然の行動だった。いよいよトルクメへのフライト、今回のメイン目的地だ。アタチュルク空港でプライオリティパスで入れるラウンジは、セキュリティチェックを抜けて右折して地下に降りた場所。一方、ゲートは反対方向のかなり離れた場所だったので、乗り遅れないよう早めに移動するよう注意した。ラウンジはドリンクに加えて軽食も食べられる標準的な設備。30分くらいゆっくりしていると、掲示板でトルクメ行きのフライトが「Go to Gate」の表示になったので向かうことにした。ゲートまでは歩いて10分以上、アタチュルク空港の巨大さを痛感するが、イスタンブールにはLCCの多くが発着するサビハ・ギョクチェン空港もある。さらには世界最大規模の新空港の建設が計画されている。さすがはイスタンブール、アジア・中東・ヨーロッパを結ぶ交通の要所だけにそれだけの需要があるのだろう。

ゲートに到着するとすぐに搭乗が始まった。搭乗はバスに乗って移動するタイプなのだが、列に並んでいると係員が何やら指示し、バスに乗っていた乗客が一斉に戻ってきた。もしや遅延?アナウンスによるとどうやら30分程度遅れるようだ。1:00のフライトでアシガバード到着は6:35予定。ドバイ組は4時台に到着するのだが、6時には道路を封鎖されてしまう為に、アハルテケの祭りには参加できないのだ。その為、アシガバードではホテルで待機することになっているので、大した影響はないが、やはり早く出発したいと思う気持ちは強い。あまりにも遅れると初日のアシガバード市内観光に支障が出かねない。30分経って再度搭乗のアナウンスが流れた。搭乗券をもぎってもらい、バスに乗り込んだ。

よし、今度こそ。だが、バスはなかなか出発しない。もしや、と思ったらまたもやアナウンスが。再度の遅延のようだ。一斉にバスを降りてゲートへと戻る乗客。しばらくしてアナウンスが流れる。ざわつく乗客・・・嫌な予感がした。英語でのアナウンスが流れたので聞くと、出発はさらに3時間遅れて4:30になるのだとか。先ほど少し話したトルクメニスタン人夫婦の旦那さんが向こうのベンチで横になって寝ていろと言ってくれた。時間が来たら起こすから、と。彼らはアシガバード出身でキプロスで働いていたとのこと。この度、キプロスでの仕事を終えて帰国するらしく、トルクメ旅行に行く我々の話を聞くと嬉しそうにアシガバードの話をしていたのが印象的だった。世界で最も白く統一された街で非常に美しいと。ノヴァ兎はすかさず尋ねた。

「Are you proud of Turkmenistan ?」

彼は意味を理解できなかったようで、ノヴァ兎はすかさず表現を変える。

「Do you like your country ?」

「Yes!」

力強い返事が返ってきた。なぜそんなことを訊くんだ?という疑問のトーンが微妙に混ざっているような気がした。ノヴァ兎がこのような質問をした背景には、中央アジアの北朝鮮とも言う人がいるような「独裁国家」に対してその国民がどのような感情を抱いているのかを知りたいという思いがあったのではないかと推測した。

前日も機内泊だった我々は、彼の好意に甘えてベンチで横になって眠ることにした。アシガバード到着後はいきなり観光が待っているのだ。少しでも身体を休めなければ。睡眠不足か疲れか、あるいはその両方か。横になって目を瞑ったらすぐにまどろみの世界へと誘われた。

4/27(日)

誰かが肩を叩いている。目を開くとトルクメニスタン人夫婦の旦那さんの顔が視界に入ってきた。ノヴァ兎も起きたところのようだ。周囲を見渡すとざわざわしている。3度目の搭乗か。今度こそ!ということで、バスに乗りタラップまで移動。ようやく搭乗できた。トルクメニスタンへの道険し、といったところだ。難しいのはビザの取得だけではなかった。見回すと辺りはうっすらと明るくなり始めている。夜間フライトのはずが早朝フライトになってしまった。機内に乗り込んだ後も実際の離陸まで30分以上待たされたので、結局4時間以上遅れてのフライトになった。

機内では前半は再び睡眠に充てた。横になって寝ていたとはいえ、細切れの睡眠では身体を十分に休められたとは言い難い。こういう時、機内食の存在は邪魔だ。もちろん無視して寝ていれば良いのだが、貧乏性なのでついつい食べてしまう。深夜フライトや早朝フライトはLCCが効率が良いな、と思ってしまう。後半は暇つぶしに映画でも観ようと思い、選んだのは『真夏の方程式』だ。原作は東野圭吾のガリレオシリーズである。これが思った以上に良かった。東野圭吾作品はかなり読んでいるのだが、映画版はまだ観ていないものも多いのだ。ちなみに『真夏の方程式』は原作も読んでいなかった。映画を観終わって30分もしたらアシガバードへ到着する時間となった。到着時刻は現地時刻で11時5分、やはりかなりの遅れだ。もう市内観光はスタートしてしまったのだろうか。

降機してイミグレまでやってきた。まずビザをもらう必要がある。LOIは持って来ているので、ビザ代を支払えばすぐに発行される手筈になっている。事前に知らされていたビザ代は70ドル、それに入国税が10ドルと入国カードが5ドルかかる。つまり85ドル必要になるのだが、実際には95ドル支払う必要があった。こういう地味な値上げにはイラッとさせられる。窓口はビザの申請および受取を行うパートとビザ代支払のパートに分かれている。まず申請をして、支払用の書類を持って支払パートへ行き、代金を支払う。そこで領収証をもらい、再度ビザ申請&受取パートへ行けばビザのシールをパスポートに貼ってくれるという寸法だ。

比較的早くに列に並べたのでそれほど待たずに済んだが、ノヴァ兎は少し列の後方に並ぶ羽目になっていた。ビザを受け取るとイミグレで入国審査を受けるのだがイミグレに並んでいると、次の飛行機が到着したのか、多くの人がイミグレの建物に入ってきた。トルクメ人は当然ながらビザを取得する必要がないので、直接イミグレの列に並んでくる。ノヴァ兎はまだビザ取得の列にいるので少し遅くなりそうだ。待っている間に俺は預入れの荷物を受け取ることにしよう。ターンテーブルはイミグレを抜けた先を右に曲がるとある。国際線空港、それも首都の空港と言えどもターンテーブルは2つだけ。小じんまりとした空港だ。不意に肩を叩かれたので振り返ると、イスタンブールの空港で一緒だったトルクメ人若夫婦の旦那だった。ようやくトルクメビザを見せてやれた。彼は見てみたくて仕方がないようだった。預入れ荷物も無事にピックアップできた俺は、彼に感謝と別れを告げ、待合スペースへと進んだ。約4時間遅れての到着となった。もちろん空港に遅延情報は表示されていただろうが、長らく待たせてしまったことで待っていてくれるドライバーには申し訳ない気持ちになった。ドライバーの名前はVolodya(ヴォロージャ)、これから何度もお世話になることになる。彼はロシア人で簡単な英語は話すが、基本的にはロシア語のみだ。とはいえ、送迎だけなので何の問題もない。挨拶をしていると、すぐにノヴァ兎がやってきた。早速、送迎車に乗り込んでホテルに向かうことにした。予想だにしないフライト遅延により焦らされたトルクメニスタン旅行がようやく始まった。

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