MENU

モロッコ幻想紀行【3】 ~カサブランカ観光~

8:40、ムハンマド5世空港へ到着。
機内から出て空港へ降り立ったのは9時頃だったか。アラブの雰囲気満載である。
しかし、異国情緒を楽しんでいる余裕はない。まずはイミグレを通過しないと。
空港から列車が出ているのだが、毎時00分に発車なのである。つまり、10時までに
イミグレを通過し、荷物をピックアップし、両替を済ませ、切符を購入し、列車に
乗り込まないといけない。初めての国でこれは結構忙しいことだ。
というわけで、案内に従ってイミグレへと進む。このイミグレがなかなか曲者で
遅々として進まないのだ。10くらいあるどの窓口もなかなか進まない。中でも
俺が並んだ窓口は並んでから全く進まない。モロッコの入国審査は厳しいのだろうか?
恐らく答えは正。今まで訪れた国と比較すると細かいところまでチェックされた。
もっとも、もう一つの理由は単純に最初に並んだ窓口の職員が細かいのか仕事が
遅いのか分からないが、とにかく時間のかかる窓口だったこと。途中で隣の窓口に
並び直したのだが、そちらで自分の順番が来た時に最初に並んだ窓口の列を見ると
俺の後ろに並んでいた人がまだ列の真ん中くらいにまで来ていなかったのだ。
もっとも、イミグレで細かくチェックされたのは「どうやってモロッコに来たか」
「モロッコでの滞在期間および滞在先」「モロッコ訪問の目的」等である。
内容は入国カードに記入したものばかりであるが、他国はほとんどフリーパスか
1つ質問される程度で済んでいたから細かく感じたのだろう。この時点で9:30だった。
イミグレを抜けて、預入れ荷物をピックアップ。幸いなことにすぐに見つかった。
入国ロビーへ出るとすぐに銀行が見つかったので、ざっと6万円分をモロッコディルハム
(以下、DHと記載)へ両替えした。モロッコDHの特徴として、国外持出しができないので、
必要分のみの両替えに留めておく必要がある。もっとも足りなくなって再度両替えする
のは面倒なので・・・そのあたりの読みが難しい。
空港併設の国鉄駅へと急いだ。駅到着は9:50、これを逃すと次は11時発なので
時間を無駄にはできない。カサ・ヴォワジャー駅までの2等切符を購入。
カサブランカには国鉄駅が2つある。カサ・ヴォワジャー駅とカサ・ポール駅である。
前者はカサブランカ市内東端に位置し、後者は市内中心部近くに位置する。
ムハンマド5世空港からは、マラケシュへ行くにもフェズに行くにもカサ・ヴォワジャー駅
で乗換えが必要なのである。カサブランカ市内へ行くには、カサ・ポール駅で降りる
のが一般的なのだが、カサ・ポール駅へは途中で乗り換えが必要となるため、時間節約の
ため、カサ・ヴォワジャー駅からタクシーという選択肢を選んだのだ。
ここでモロッコ観光について説明しよう。映画の影響か、一般的にモロッコで最も
知られている都市はカサブランカだと思う。と、同時にモロッコ観光者の間では
カサブランカは見所がない、というのは“常識”ともなっている。近代的なビルが
立ち並ぶ経済都市カサブランカは普通の都市でしかない。唯一、ハッサン2世モスクのみが
観光名所、と言えるだろう。そして、俺はそのハッサン2世モスクを観に行くのであった。
ムハンマド5世空港から電車に揺られること30分、カサ・ヴォワジャー駅に到着。
空港からの列車にはそのままマラケシュやフェズに行くのだろう人で溢れていて彼らも
乗換えのため、カサ・ヴォワジャー駅で降りていた。駅舎からから出るとタクシーの客引きが
待ち構えている。気の良さそうなおじさんに話しかけた。
「ハッサン2世モスクへ行きたい。いくら?」
「ハッサン2世モスク?知ってるよ!」
「いくら?」
「40DH」
市内の移動としてはまぁ相場レベルだ。駄目元で尋ねてみた。
「30DHではどう?」
「ダメだ。40DH。」
「OK、頼むよ。」
話はまとまった。時間が惜しい俺には「時は金なり」なのだ。今回のモロッコ旅行は
日程に余裕がないので常に金より時間優先なのであるが。これが日本という休暇の
少ない国で働く者の宿命なのか。
このタクシー運転手、かなり良い人であちこち説明してくれた。
あれは学校だ。
あれは国鉄駅、カサ・ポール駅だ。
見えてきただろう、あれがハッサン2世モスクだ、と。
10分少々でハッサン2世モスクへ到着した。
ハッサン2世モスクとは・・・
モロッコ、いや北アフリカ最大のモスクであり、大西洋岸に面した9ヘクタールの敷地に、
2ヘクタールのモスクがそびえ立っている。このモスクはカサブランカ市内のどこからでも
見ることが出来る。モスク内部には、25,000人が収容可能で、ミナレットの高さは200
メートルで世界一の高さを誇る。
その巨大さ、壮麗さに圧倒された。と、同時に大西洋の青を背景にするとその映えること
映えること。内部はイスラム教徒じゃなくても見学可能だが、11時からの1時間の見学ツアー
に参加しなくてはならない。そして120DHもかかる。12時にモスクを出発すると、12:07発の
カサ・ヴォワジャー駅から空港へ行く列車に間に合わない。それを逃すと次は13:07になる。
それでもギリギリ間に合うかもしれないが、日程に余裕のない今回の旅ではリスクの高い行動
は極力避けたい。よって、内部の見学は諦め、その分外側をじっくり見ることにしたのだ。
詳細は写真を見ていただきたい。
11:40頃、モスクを一通り見たのでそろそろ駅へと向かおうとタクシーを探した。
それらしい青年に声を掛ける。
「カサ・ヴォワジャー駅までいくら?」
「なに、カサ・ヴォワジャー駅?知ってるよ!」
「・・・いくら?」
「50DH、グッドプライスだよ!」
「えぇ?カサ・ヴォワジャー駅からここまで40DHだったんだけど?」
「いやいやいや、50DHだね。グッドプライスだよ!!」
・・・なるほど、これが噂に聞くモロッコ人のウザさか。他のタクシーに値段を聞いてみても
良かったけど、所詮は10DH(約120円)の差なので乗ってやることにした。
やはり駅から往復で頼んでおくべきだったかな、などと思いつつ。
「分かったよ、50DHで良いから行ってくれ。」
商談成立。
タクシーに乗った後もウザさは続いた。
「カサ・ヴォワジャー駅からどこに行くんだい?」
「ムハンマド5世空港」
「おぉ、知ってる知ってる!」
(おいおい、さっきから・・・。タクシー運転手なんだから知ってて当たり前だろ!)
「250DHで空港まで行くけど、どうだい?」
「いいや。カサ・ヴォワジャー駅へ行ってくれ。」
「なんで?このまま行けば楽だよ。250DH、グッドプライスだよ!」
(空港までタクシーで行くなら時間ギリギリまでハッサン2世モスクを見学しとるわ!
それに内部の見学もしたし。つか、ダルいな。マラケシュまで行くって言えば良かった。
まぁ、理由を説明するのも面倒なんでここはこれで押すか。)
「いいんだよ、俺は電車が好きで、電車に乗りたいんだ!だから、カサ・ヴォワジャーへ行け!」
「・・・分かったよ。」
モロッコでは何かにつけてチップを要求したり、親切の見返りとして金を要求される、と
聞いていたけどこんなのが続くと疲れるだろうな、などと思いを巡らしていた。また、着いて
から料金を上乗せして要求してくるんじゃ?とも。まぁ、そうだとしても50DHしか払わないが。
すると、俺を怒らせたのかも・・・と思ったのかどうかは知らないが、また話しかけてきた。
「どこから来たの?日本?中国?」
「日本だよ」
「おー、遠くから来たね。モロッコはどう?」
「いいね、グッドだよ(相手の得意技)」
「そうだろ?モロッコはグッドだよ、グッド!」
それから、これからどこへ行くのか、なんでモロッコに来たのか、などと話した。
話すと案外いい奴だったんだな、彼は。ま、だからと言ってウザいのは否定しないが。
カサ・ヴォワジャー駅から空港までの電車は毎時07分に出ること等も教えてくれた。
(もっとも、そのあたりの情報は全て先に調べた上で行動予定を立てていたのだが。)
モロッコ人はウザい。金に汚い。人懐っこくて温かい。良い面も悪い面もその通りだ
と思った。その後もモロッコ人と接していてその認識を強くした。良い方にも悪い方
にもアツいのだ。歩いているだけで何度も声を掛けられたし、自分は自分、他人は他人
という個人主義が確立されている西欧との違いを痛感した。子供がそのまま大人になった
ような、良くも悪くも人間臭いモロッコ人、というのが俺の結論だ。
どこか懐かしさを感じて、少しだけ羨ましい。
さて、カサ・ヴォワジャー駅に到着し50DHの支払いを済ませると、駅に入ってムハンマド5世
空港までの切符を買った。電光掲示板のアラビア語を見るとモロッコへ来たんだな、と実感
する。列車は時刻表の通りに来た。再び同じ道を今度は空港へと移動した。異国の地で車窓の
風景を見るのはなぜこんなに楽しいのか。きっと見たことがない景色が広がっているからだろう。
空港ではまずセキュリティチェック。空港に入る時点でチェックがある、というのも
セキュリティの厳しさの表れか。無論、チェックに引っかかるようなものは持っていないが
財布やら携帯電話やらをいちいち外すのが面倒なのだ。その後は、国内線のカウンターへ
行きチェックインを済ませる。荷物を預けようとしたら持込みOKだとのこと。
のんびり空港内を散策しても時間が余ったので、早々に出発ゲートへと移動。15ゲートだ。
・・・誰もいない。結局何人くらい来るんだろうか。
しばらく待っても誰も来ない。他のゲートには人がポツポツと。
そして、搭乗時刻になっても来ない。仕方がないのでそのまま待つ。
他の客もだけど、職員もゲートに来ないんですけど。本当に飛ぶのでしょうか。
搭乗時刻を20分以上過ぎた頃、ようやく職員が来た。チケットの確認をしてバスへ乗り込めと。
えっ?
当然誰もいない。もしかして・・・
到着した目の前にあったのはプロペラ機。マジですか!
パイロットとCAらしき女性が雑談していた。女性に乗るよう促されたので乗り込んだが・・・
やはり誰も乗っていない。これはやはり・・・
乗客:俺だけ
みたいだ。こんなの初めてだ。プライベートジェット機ならぬプライベートプロペラ機だ。
採算取れるのかな。俺が支払った1万数千円で飛行機飛ばせるのか?
パイロットが俺の座席まで来て一言。
「アローーーーーーーーン!!」
やっぱり一人です。
これはこれで貴重な体験だなと思い、存分にくつろぐことにした。ロイヤルエアー
モロッコという馴染みのない航空会社(一応モロッコのフラッグシップ航空会社)
でどこか知らない土地へ連れて行かれるかもしれないが、その時はその時だ。
何事も開き直りが大切。
女性CAにオレンジジュースを持って来てもらいくつろいでいると、プロペラが回り出し、
機体はまだ見ぬモロッコの都市へと飛び立っていったのだった。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

目次
閉じる