登場人物紹介
今回はグループ旅行となるので初めに登場人物を紹介する。
ショウ:トルクメニスタン旅行の起案者、事前手配を担当。トルクメではヤンギ・カラとダムラ村の訪問を熱望。
ノヴァ兎:トルクメニスタンメンバー、北朝鮮やブータン等の一風変わった国を好み、旅行してきた。トルクメでは首都アシガバードの風変わりな様子に期待。
イースト:トルクメニスタンメンバー、シルクロード好き。4年前、ウエストとシリアで出会う。トルクメではメルブ遺跡を最も楽しみにしている。
ウエスト:トルクメニスタンメンバー、シルクロード好き。4年前、イーストとシリアで出会う。トルクメではガスクレーターを最も楽しみにしている。
懐かしきイスタンブール
5/3(土)
モーニングコールが鳴る。4時だ。ある衝動でベランダに出てみる。外は未だ真っ暗だ。仰々しいライトアップを見るのもこれで見納めだ。昨夜のうちに主だった荷物はまとめておいたが、サブバックに入れる方の荷物を今一度確認。ベッド周りも確認。今回は大丈夫のようだ。長期旅行の間には何度もシャンプーや身体を洗うゴシゴシできるタオルを忘れたものだった。シャワールームに置きっぱなしにすることが多かったのである。今回はそれもない。とはいえ、短期旅行なので忘れたとしても大したダメージではないのだが。
ノヴァ兎も準備ができているようなので、荷物をまとめて部屋を出た。隣の部屋から物音が聞こえるので、ウエストもイーストも起きているようだ。と思ったら部屋から出てきた。合流してロビーへ。チェックアウトを済ませ、朝食代わりのランチボックスを受け取る。最後の最後までビュッフェは食べられなかったのが最大の心残りかもしれない。なにせ旅行で五つ星ホテルに宿泊することはまずないのだ。このホテルのクオリティが五つ星ホテルのそれであるかは別として。
外を見るといつものワゴンが停車した。ヴォロージャだ。結局、空港とホテルを移動するのは6回になったがそれもこれが最後。彼の役目は空港送迎なので、それほど深く絡んだわけでもなかったが、温厚な人柄には癒されたものである。異様なライトアップに照らされたアシガバードを眺めつつ、空港へ移動。
今回は国際線のターミナルだ。ここでヴォロージャとも別れの握手をし、チェックインカウンターを探す。が、どうやらチェックインの前にセキュリティを抜けなければならないようだ。セキュリティゲートを抜けて再度4人で集合した。イースト&ウエストが乗るflydubaiは既にチェックインが開始されていたが、俺とノヴァ兎のTurkishAirはまだチェックインも始まっていないようだ。とはいえ、flydubaiの方もフライト時刻まであと1時間だったので、我々を待たずにチェックインするよう薦めた。彼らともここでお別れだ。イーストはクウェートやカタールを周ってカタールから成田へ帰るとのこと。行きにアブダビやドバイを観光しているので、今回で4ヶ国訪問らしい。一方、ウエストはドバイで3日過ごすようだが、その過ごし方がまだ定まっていないのだとか。オマーンの飛び地、ムサンダム地方へのツアーを探していたが、行きのドバイ滞在では旅行代理店を訪問する時間もなかったようだ。
彼らと日本での再会を約束し(というかしょっちゅう会っている間柄なのだが)、搭乗ゲートへと向かう2人を見送った。再びノヴァ兎との2人旅が始まった。まずはチェックインが始まるまでの暇つぶしに朝食を食べることにした。例のランチボックスだ。ランチボックスの中身は例によってサンドイッチとケーキと果物だけなので、それだけで大した暇つぶしにはならずその後もかなり待つ羽目になった。40分くらい待ってチェックインが開始されたが、それでもまだフライトまでは2時間ほどある。当然この空港にはラウンジなんてものがあるわけはないので、シートに座って待つしかないのだ。イスタンブールもトルクメに来る前に滞在しているので、新天地を目指す高揚感のようなものもない。ノヴァ兎とひたすらぼけ~っと待っていたのである。面白かったのはまさにイースト&ウエストが乗っていたドバイ行きのフライトがなかなか出発しなかったことであった。様子を見ている限りでは、チェックインはしたもののまだ搭乗していない乗客がいるようで、アナウンスしたりして探しているようだった。離陸時刻から20分過ぎても探していたことに衝撃を受けた。ましてやFlydubaiはLCCなのだ。コストカットが至上命題の航空会社でそんな甘いこともあるもんだなとある意味感心していた。
そして我々のフライトも若干遅れて出発した。とはいえ、15分程度ではあったが。ノヴァ兎は今日、明日に加えて明後日の午前中までイスタンブール観光に充てられるが、俺は明日の深夜にはモスクワ行きのフライトに乗らなければならない。限られた時間を有効利用しなければ、イスタンブールの定番を観光できずに終わってしまう。実際のところ、1日は近郊のエディルネまでショートトリップを考えていた。エディルネにはセリミエ・ジャーミィという豪華なモスクがあるのだ。世界遺産にも登録されている。だが、エディルネまでは片道3時間かかる。朝出発したとしても往復の時間とセリミエ・ジャーミィの観光で日中はほぼそれで終わってしまうだろう。今日の観光如何でどうするか決めようと考えていた。そして天気予報だ。旅行中は非常に重要な情報だ。ましてや短期旅行ともなれば1日、いや半日たりとて無駄にはできない。ところが予報によると本日は快晴だが、明日は雨なのだ。しかも傘マークががっつり出ていて降水確率も100%になっている。土砂降りかもしれない。そこで、辿り着いた結論は今回エディルネは断念し、イスタンブール観光に専念するというもの。さらに、今日は快晴なので、まず見どころとなる建物や風景の概観を重点的に周って撮影を行う。雨の明日はモスクや宮殿の内部を見学する、という計画を立てた。この機内で考え出した結論を、イスタンブールのアタチュルク国際空港に到着した後、ノヴァ兎に話してみたところ、快諾。というより彼はメインのトルクメ観光が終わって若干燃え尽きていたように感じられた。イスタンブールはまさにおまけなのだろう。
空港からは前回と同様の行き方でスルタンアフメット駅まで移動した。相変わらずの騒がしさだ。客引きも次々と声をかけてくる。今回の宿は駅から少々歩く場所にある。ブルーモスクを右手に眺めながら坂を下っていく感じだ。予約した宿の名前は『アゴラゲストハウス』だ。『地球の汚し方』にも記載されている日本人には有名な宿らしい。日本人女性がスタッフとして駐在している影響もあるのかもしれない。空港に着陸したのは定刻から若干遅れた11時過ぎだったが、宿に到着した時は時計は既に13時近くを指していた。とりあえずチェックインは14時からなので、荷物を置かせてもらい、レセプションでしばし休憩。
facebookでTLを眺めてみると、トルクメニスタンへ行く前に出会ったジュンク堂はエジプトを満喫しているようだった。我々もいざ観光を、ということで出発。まずは定番のブルーモスクやアヤソフィアから。このあたりはとにかく人が多い。観光客だらけだ。それまでトルクメにいたので、その違いに唖然としてしまう。ちょうど週末に重なっているからか欧州各国から週末だけで旅行している人も多いようだ。たとえばフランクフルトとイスタンブールの往復航空券は安ければ1万円台からある。欧州在住が羨ましいと感じてしまう瞬間だ。
この時点で既に人混み疲れをしたので、一旦宿に戻ってチェックインを済ませることにした。部屋はドミだが地下の部屋だった。風通しが悪くジメジメしていたので、あまり快適とは言い難かったので、すぐに屋上に上がった。この宿の良いところは屋上のテラスが快適なのだ。テラスからはマルマラ海が望める。眺めは素晴らしい。反対側にはブルーモスクも見える。今日のイスタンブールは本当に気候が良い。カモメも飛んでいて、海に面している街ならではの気持ち良さを感じる。古のコンスタンティノープルの歴史に想いを馳せてしまいそうになる。だが、この短期旅行にそんな時間的余裕はないのだ。
少し休憩した後、再び観光に出ることにした。今度はトプカプ宮殿を抜けてガラタ橋、さらにはアジアサイドへ渡ってすぐの場所にあるガラタ塔に登って夕景を眺めようという計画だ。かくしてイスタンブール観光第二弾が開始された。いや、トルクメ訪問前にグランドバザールを歩いたことを含めると第三弾になるわけか。まずはトプカプ宮殿を目指す。庭園部分はチケットがなくても歩けるのだ。イスタンブールの見どころの中でもここが最も混むようだ。明日は朝一でここに来るしかないな。トプカプ宮殿を抜け、アジアサイドへ抜けるガラタ橋へと歩いた。20分ばかり歩いただろうか、意外と距離がある。トラムに沿って歩けば辿り着くので方向に迷うことはまずないだろう。ガラタ橋が見えてきた。遠目に見ても釣りを楽しんでいる現地人の姿が分かる。このボスポラス海峡がヨーロッパサイドとアジアサイドを分かつのだが、大小さまざまなサイズの船がひっきりなしに往来している。観光客向けのクルーズも多いが、現地人の足となっている渡し船もまた多い。渡し船といっても小さなフェリーくらいの大きさはある。またしてもイスタンブールがアジアとヨーロッパを地理的に分ける場所に位置することを実感する。
ガラタ橋の手前にサバサンド屋があった。手慣れた手つきで鯖を焼き、レタスと一緒にエキメッキと呼ばれるトルコ風のパンに挟んでゆく。価格は5リラ。1リラが約50円なので250円か、物価の高いイスタンブールにしてはなかなかの良心価格、と見るべきか。レモン汁や塩胡椒が用意されているので自分でお好みに味付けする。絶賛する程の味でもないが、魚が好きなら食べて損はないだろう。イスタンブール名物でもあるわけだし。鯖を焼くおじさんが巧みに骨を取り除いていくのが印象的だった。
ガラタ橋の上は遠目から見た以上に釣り人で溢れていた。所狭しと釣竿が並んでいる。それだけ釣れるのだろうか。近場にこれだけの釣りスポットがあれば、手軽におかずの調達ができると言うもの。ガラタ橋は歩いて5分くらいで渡れた。ヨーロッパからアジアへ入ったのだ。
ここから予定通りガラタ塔を目指す。ガラタ塔自体は非常に目立つ建物なのでおおよその位置は分かるし、観光客も多いので道に迷うことはなかった。細い路地の両脇には明らかに観光客向けと分かる店が立ち並んでいた。坂を登ってガラタ塔まで歩いて15分程度か。塔の下にはうんざりするような列ができていた。今日はどこへ行ってもこのような行列ができているのだろう。腹を括って並ぶことにした。塔の入り口まで前進するのに結局1時間半待った。今日の観光はこのガラタ塔で終わりだろう。塔に入っても相変わらずの混雑具合で、小グループ毎に区切っての入場、移動も規制をかけていた。それでなければ大きな混乱を招くことになっていただろう。下手すれば事故が起きてもおかしくない。それだけ狭い場所に多くの観光客が密集していたのだ。
塔の内部はレストランも入っており完全に観光化されている。ここがイスタンブールのランドマーク的な観光地なのだろう。塔の最上部に周辺を360度見渡せる場所があった。ここからはブルーモスクやアヤソフィア、スレイマニエ・ジャーミーも見渡せる。ちょうど夕暮れ時ということもあり、イスタンブールの夕景を楽しむ観光客が多かった。俺やノヴァ兎はこの観光客の多さに少々辟易していたが。トルクメニスタンの観光客の少なさとは大違いだ。これだけ人が多いと、どんなに素晴らしい景観でも疲れてしまうのだ。
観光を終え、塔を後にした。後は宿に戻るだけ。来た道を戻れば良いのだが、方角がわからなくなってしまい、小一時間ほど周辺を彷徨う羽目になってしまった。歩いているうちに真っ暗になり、あれほど細い路地に入ると、観光客の姿は全く見えなくなり、ややもすると危険な空気を感じないでもなかった。やはり人通りの少ない路地の夜はそれだけで危険を感じる。避けるべきだ。
結局、一旦ガラタ塔に戻り、そこから観光客の流れに乗ってガラタ橋の方へ出る道を見つけた。この通りだけは夜でも観光客で溢れている。ガラタ橋手前にトラムの駅があり、ここからスルタンアフメット駅まで戻ることにした。今の時期は日が落ちるのが遅いので、暗くなったかと思うと、既にかなり遅い時間になっていたりするのだ。俺もノヴァ兎もちゃんとした夕飯を食べていなかったのでトラムの駅周辺にあるケバブ屋でケバブを買って食べることにした。簡単な夕食だ。いや、夜食と言っても良い。物価の高いイスタンブールでは観光客向けのレストランで何か食べたらかなり高くつくし、大して腹が減っているわけでもない我々にはこれで十分だった。
宿に戻ったのは22時頃だっただろうか。ベッドに見知らぬタオルが置いてあったのが気になったが、まずは汗を流したいのでシャワーを浴びることに。シャワーから出てドミに戻ると、見知らぬ荷物がベッドに置いてある。誰かベッドを間違えているのか?と思ったら、ノヴァ兎が「ベッドダブルブッキングみたいになってるみたい」と一言。やはりか。昔ドイツで同様の自体に遭遇したことがあり、その時は相手の小娘とかなり揉めたので、この先の展開を考えると少々うんざりしたが、その夜は結局相手は現れなかった。俺はというと、いつまでも待つのは馬鹿馬鹿しいと判断し、荷物を脇へどけて寝ることにした。その頃にはノヴァ兎を含めた同じドミの住人は皆電気を消して寝ていたのだった。